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#01 小浜温泉の挑戦
中活法を契機に、新しいまちづくりが胎動
平成10年7月に、いわゆる「まちづくり三法」を構成する「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律(略称:中心市街地整備改善活性化法)」が施行されている。中心市街地整備改善活性化法は、市町村の役割の重視、市街地の整備改善と商業等の活性化の一体的推進という特徴をもった法律で、関係13省庁(当時)により、総合的な支援施策が展開されている。これまでに、382市町村(390地区)で基本計画が策定され、うち、119の団体が中小小売商業高度化事業構想(TMO構想)の認定を市町村から受けている(平成13年4月現在)。
中心市街地の活性化に取り組んできた自治体のうち、足踏み状態にあった既存事業を再編成し、この法制に基づく各種の支援策を活用して事業推進を図った市町村も多い。一方で、この計画策定作業が契機となり、商業者や住民が主導する新しいまちづくりの胎動が起こっているケースもある。小浜町中心市街地の活性化の取組みは、まさにその例であると言える。
小浜町は、長崎県島原半島に位置する人口1万2千人の温泉町である。「山の雲仙、海の小浜」と称される2つの温泉街を有し、全国的にも名高い観光地であるが、平成2年におこった普賢岳噴火の災害以降、観光客は減少を続けている。平成11年度の年間宿泊客数は、30万人を割り込み、10年前のピーク時に比べ3割以上も減少している。町の主産業は、観光産業と農漁業で、観光客の減少は、そのまま地域経済に深刻な影響を与えている。地元の危機感も強く、ラスト・チャンスという心意気で、中心市街地整備改善活性化法に基づく、活性化プランの策定がスタートした。
笑いの総合商社・吉本興業のノウハウが生きる
吉本興業と弊社は、共同チームを組んで、その事業企画コンペに参加し、基本計画策定に携わることとなった。吉本興業が、まちづくりに参加するということで注目を浴び、多くのマスコミにも取り上げられた。というより、吉本興業の持つノウハウが発揮された結果として、一連の報道につながったともいえる。「絵になる」ことがメディアに報じられるためには不可欠である。そのツボを心得た吉本興業ならではの提案が、第1回目の会議途中でのデモンストレーションとなった。
日没の時間が近づくと、町長をはじめ、委員全員が一斉に、橘湾に沈む夕日が見える堤防へと移動を始めた。策定委員の面々が浴衣や作業着など、思い思いの衣装に着替えて、まちの将来への願いを込めた品を手に並んでいる。横断幕には「海辺の露天風呂を造ろう!」の文字。刻々と海の色を変える夕日の美しさを描いた自筆のポスター。全国有数の生産量をほこる馬鈴薯と、地元の家庭に伝わる手づくりの馬鈴薯まんじゅう。農作業の合間につくったお手製の小物いれになるカゴ(農業者も中心市街地を支える委員の一員に加わった)。こうした人々を、テレビ、新聞、雑誌の記者が取り囲み、一大撮影大会となった。

夕日をバックにした逆光のため、一人一人の顔は覗いにくいが、その表情には、やる気と笑顔が溢れていた。絵姿をつくり、メディアに向けていかに見せるか、売り込むか。それをイベントへと繋ぎながら、新鮮な情報を発信し続けること。そして、なにより、まちづくりの主役である、生活する人々が元気になること、楽しむこと。そこに、吉本興業という強い個性とともに、「お笑い」という人のこころの襞までもマネジメントするノウハウが発揮されている。「芸人さんは、いつ来るの?」といったいわゆる「吉本らしさ」とは異なる、「吉本流」のまちづくりには、これまでのコンサルタントによる定型的な計画技術にはない、参画する人々に対する求心力を生んでいる。同時に、「あの吉本が?」という世間に通じる知名度は、まちづくりを住民の側に近づけるのにも効果があがった。
高齢者・障害者に優しいまちづくりを目指して
中心市街地活性化のコンセプトである「こころポカポカ小浜温泉」。これは、住民代表として参加した女性委員から提案された。作り物ではない、まちに生活する人から発せられたフレーズである。「小浜温泉に来た人には、体だけでなく、心もいっしょにポカポカ温まっていってほしい。そんな町にしたい。」という思いが込められている。
もともと、農閑期に周辺農村から保養・療養に訪れる人をもてなす温泉地として、小浜温泉は栄えた。こうした背景とともに、超高齢社会の到来を見据えた、新しいまちづくりへの展望を抱きながら、優しさにあふれた温泉地をつくりだそうという方向性が確認された。
同時多発の取組みが相乗効果を生む
一年間の基本計画の策定作業が終了した時点で、12の事業推進分科会が立ち上がった。そのほとんどが商業者や住民の発意によるテーマであり、やりたい人が手を挙げてリーダーとなった。まちのアイデンティティを象徴するロゴマークを決める「こころポカポカCI事業分科会」。まちづくりのエンジンとなる収益事業を組み立てる「地場産品直売所等設置分科会」。高齢者・障害者への優しさをできることから届け始めた「ショップモビリティ運営普及分科会」に「高齢者・障害者対応もてなし分科会」。まちのグルメを売り出す「小浜ちゃんぽんPR分科会」等々。いくつかの取組みを紹介したい。
ショップモビリティとは、高齢者や障害者にまちに出て来てもらうための移動手段(電動スクーター等)を提供するもので、英国発祥のサービス・システムである。商店街内の空き店舗を活用した「ショップモビリティ情報センターぽかぽか」を拠点として、普及啓発活動が進められている。この先進的な取組みには、既に全国から視察グループが訪れており、今後は「総合的な学習」の教育プログラムのひとつとして展開していくことが目論まれている。
また、障害者・高齢者を招いて意見を聞くモニターツアーが実施された。これには、障害者・高齢者と介護者をあわせ、九州各地から200人を超す人が小浜温泉を訪れた。商店や旅館というまちの現場で率直な意見が寄せられ、なにより、直に障害者の応対をする商店・旅館の従業員へのインパクトは大きかったという。旅館の女将さん等を対象とした手話教室も毎月行われており、こうした草の根的な取組みは、人々の意識を確実に変えつつある。
もう一つ特筆すべきは、「小浜ちゃんぽんのまち」の打ち出しである。元来、ちゃんぽんは中国人留学生の滋養のための健康食だったとも言われる。もちろん、長崎ちゃんぽんが全国的に知られ、「どうして小浜で?」という声も聞こえてきそうだったが、地元放送局のワイドショー番組にも取り上げられ、「隠れたちゃんぽん王国」として旅行雑誌にも掲載されてしまった。小浜には、橘湾のアゴ(トビウオ)の出し汁のスープを使った「小浜ちゃんぽん」を出す店が実に17軒もあった。普通の食堂だけでなく、寿司屋でもスナックでも「小浜ちゃんぽん」を食べることができる。
ちゃんぽんをだす店がこんなに沢山あることをはじめとして、まちの資源をなかなか明かしてくれないのが、地元の人々である。地元が当たり前と思っていることに、光を当てるのがコンサルタントの役目でもあるが、それを磨くのは、地元の人しかいない。今では、寿司屋のちゃんぽん定食は、店の定番メニューとなり、人気も高い。「小浜ちゃんぽん」目当ての立ち寄り客は、確実に増えている。こうした盛り上がりのなか、長崎ちゃんぽんのフランチャイズ店がまちの一等地に出店した。一部でわだかまりも生じているが、地域の取組みが、大手商業資本を動かしたのだ。
役者が揃った「小浜ん人」たち
しかし、行政の財政状況が厳しいのは、どこの町にも共通の問題である。補助金頼みの活性化は限界を迎え、地元の発意とやる気、そして、一定の受益者負担の上にのみ、行政の支援が成立する時代になっている。地方分権の流れのなかで市町村合併の論議もある。加えて、観光客の減少は暗い影を落としている。そこを補うのは、まちへの愛着を強く持ったリーダー達の頑張りである。その「小浜ん人」たちの一人一人の個性が、バランスしながら、うまく噛み合っているのも、大きな強みである。直木賞作品「長崎ぶらぶら節」にも登場する旅館の女将さんは、映画の小浜ロケを誘致してしまうほどの宣伝マンだし、まちの歴史から自販機の位置まで、何でもござれ、の小浜博士もいる。温泉の湯気へのライトアップをはじめとした新しい魅力づくりに邁進する人に、厳しく情勢を見極めながらじっくりと策を練る戦略家も。農家の奥さんは地場産品のフリーマーケットに出店し、日に20万円も売り上げて、俄然元気がでてきた。こうしたリーダー達は、外部のサポーターを巻き込みながら、まちの良さを発信する術を探り、実践している。まちを変えようという、地元の人々の熱い思いは、筆者にとっても特別である。日頃のやりとりが、筆者のこころもポカポカと沸き立たせられ、ついつい力が入ってしまう。
第2ステージに向かう活性化
今年3月にはTMO構想を策定し、町の認定を受ける段階にきた。さらに、新たにタウン・マネージメント機関として、既存組織の集約再編も視野に入れた、まちづくり会社の設立準備を進めている。まちづくり活動とその情報を一元化し、総合的に事業をプロデュースする専門人材を配置することを目指している。
また、この春には、「波の湯・茜」がオープンした。最初の写真の横断幕にあった露天風呂である。その名の通り、堤防の外、テトラポットの上にある。波が打ち寄せる湯につかり、夕日を眺める。ここを集客の拠点に、相乗効果を狙った新しいまちづくりに向けて、地場産品直売フェア等の試行イベントが進められている。地域のポテンシャルを高め、施設計画のフィジービリティ・スタディを具体化しようとするものである。
現実には、TMO構想はできたけれど、事業へ移行できない中心市街地が多い。まちづくりの主体となる人材の確保、住民・関係機関等との合意形成や資金調達といった課題のために、多くの労力と時間が費やされ、次のステップに辿りつけないところが多い。
島根県松江市の天神町商店街では、中心市街地活性化を契機として、高齢者をターゲットにした商店街づくりを推進している。ボケ封じの天神さんまで建立し、月1回の縁日を催し集客を図るなど、短期間に成果をあげている。全国からの視察が絶えず、ハコもの・ハードに頼らずとも、まちの活性化は十分可能なことを示している。
小浜町中心市街地のまちづくりも、民間・住民主導で、知恵を絞りながら取組みを重ねてきた。ようやく、将来のまちの方向性がかたちを顕しつつある。これからの頑張りの継続にかかっていることは、もちろんだが、福祉と集客・商業とが複合した、新たな温泉観光地のモデルを小浜温泉が提示する日は近い。
(社)日本建築協会 発行 『建築と社会』 所収、
「長崎県小浜町「こころポカポカ小浜温泉」を目指したまちづくり」より






